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十四郎の恋愛白書 1

第16章 No.16


目を覚ますと、真っ白い天井。
ぼんやりした視界が次第にハッキリしてくると、自分が酸素マスクを付けてベッドに寝かされていることがわかった。
どれだけ眠っていたのか…。
腕には数本の点滴。
なんだかデジャブを感じた。

重たい腕で枕元のナースコールを手繰り寄せ押そうとして、視界の隅に銀色の綿毛が動いているのに気付く。

「…何してんだ、テメェ」
「ん?」

万事屋がオレの見舞いの品らしき物を貪り食っていた。

「おう、ようやく起きたか、多串くん」

万事屋は頬張っていたカステラを丸呑みすると、相変わらず死んだ魚のような目を瞬かせる。

「土方だ! テメェ、人の病室で一体何を…、ぐっ!」

とぼけた顔に一瞬で頭が沸騰する。オレは酸素マスクを剥ぎ取って腕の点滴を引き抜き、起き上がろうとしたが、腹の激痛でそれは阻まれた。

「おいおい、まだ絶対安静状態なんだから無理すんなよ。すげー毒だったらしいぜ」

蹲るオレに万事屋が近づいて来て手を差し伸べようとしたが、パン!とその手を払い除ける。
万事屋は「おー怖えー」と声を上げただけだ。

「オレはどの位寝てたんだ」

全身が怠い。身体が強張っていた。
腹の痛みに耐えるオレに、万事屋は「1週間くらいだとよ」と答えた。

「結構な猛毒だったらしいけど、ほんと、鬼の副長の名は伊達じゃねぇな」

まだ見舞いの品を物色しながら万事屋が続ける。

「まぁ、オレもゴリラから聞いたんだけど、おまえ最近よく中和剤を飲んでるんだろ?それが体内に残っていて少し毒を中和してくれたらしいぜ。それが無かったら即死だよ、即死」

目ぼしい物を見付けたのか品物の1つを手に取り、早速包装を破り出す。

「それでも昨日まで生死の境を彷徨ってたらしいぜ。なんでも天人製の毒らしくて、解毒方法がなかなか見付からなかったんだとよ」

せんべいだったらしく、バリバリ食べ出した。

「まあ、ギリギリで解毒方法が見付かってなんとか助かったんだと。おまえの体力がもう少しなかったら危なかったらしいぜ」

箱の中のせんべいが瞬く間になくなっていく。

そこで万事屋は声のトーンを少し下げた。

「ゆきに、似てた女だったんだって?」
「………」

オレを刺した女のことだろう。

「相変わらず、女は斬れねぇとか言ってんのか?」

万事屋は再び品物を物色し始めた。

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