第11章 No.11
チャイナは自分の体を抱き締めるように抱え、両腕に立つ鳥肌をさすった。
「神楽ちゃん、落ち着いて…」
ゆきが手を差し伸べるが、チャイナはその手から慌てて遠ざかる。
「キモいアル!その顔と声で「神楽ちゃん」って言わないで欲しいアル!」
「おいチャイナ!ゆきに向かって“キモい”って言うな!」
「ぎゃー!ゆきの顔が犯罪者みたいに怖いアル!」
「神楽ちゃん、ほんとにちょっと落ち着いて…」
「うぎゃー!私に近寄らないで!」
「おい万事屋!テメェいつまで現実逃避してんだ!こいつ何とかしろ!」
その後メガネも登場して、もうワンクール騒いだ後、オレはやっと本題を切り出すことができた。
「だーかーらー!万事屋!メガネ!チャイナ!これ以上四の五の言わずに、平賀源外の居場所を教えろ!」
肩を怒らせてはぁはぁと息を切らす。
すると万事屋はガシガシと頭を掻き、大きく溜息を吐いた。メガネとチャイナが不安気に万事屋を見る。
平賀源外は指名手配犯なのだ。
「その前に多串くん、源外のじいさんの居場所を教えても、逮捕しねぇって約束してくんない?」
言われると思っていた条件だ。
仕方ねぇ。背に腹は変えられない。
「…わかった」
オレが答えると、万事屋は「約束だかんな」と言いながら立ち上がった。
「私達も行くアル!」
チャイナとメガネが慌てて着いてくるが、万事屋が止めた。
「オメーらまで来たらややこしい。もし前みたいにその辺のヤツら全員中身入れ替わったらどうするんだよ」
ぶうたれるチャイナ達を背に、オレ達は山崎の運転するパトカーに乗り込んだのだった。
着いた先は、歌舞伎町のはずれのゴチャゴチャと鉄屑が積み重なった廃墟らしき建物。
オレ達はパトカーを降りて、入り口らしきシャッターの前に立った。
しかし、そこで3人立ち尽くす。
『銀の字へ しばらく留守にします』
真っ白い半紙に、黒の墨で書かれた達筆の字。
「なんじゃこりぁーー‼︎」
オレはガムテープで貼られたそれをビリッと剥ぎ取り、叫んだ。
万事屋をバッと振り返ると、野郎は相変わらず死んだ魚のような目で、ポリポリと頬を掻いた。
「あぁ…。じいさんたまに、ふらりと旅に出ちまうんだよ。ほんで一カ月くらい帰ってこねぇ」