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十四郎の恋愛白書 1

第9章 No.9


「ふ、副長、入ります」
「おぅ」

昼食後、しばらくしてから山崎が来た。
オレはあらかじめ用意しておいた座布団を勧める。

山崎はビクビクと座布団に座った。その顔は蒼白だ。
まぁそうか。オレがコイツに座布団を勧めるなんて初めてだし。これから何が起きるのか警戒(恐怖)してやがるのだろう。

「それで、副長、あの、お話というのは…」

遠慮がちに山崎が切り出す。
オレはそれにしばらく答えず、タバコをふかしていた。

山崎はチラチラとこちらを伺う。
オレは短くなったタバコを灰皿に押し付けてから口を開いた。

「山崎、おまえ、あのカラクリ家政婦とはどうなってる?」

オレからの問いに目を丸くする山崎。思ってもいかなった質問だったのだろう。

「たまさん、のことですよね?…あの、特に進展はありませんが…」

山崎は戸惑いながら答えた。

「おまえはまだあの家政婦のことが好きなのか?」

オレが聞くと山崎は頬を赤らめ「はい」と答えた。

「あの、人間とカラクリが結ばれることはないと分かってるんですが…。でも、たまさんの優しさを忘れることができなくて…」

山崎は少し切なそうに笑った。

「おまえは苦しくないのか?」

山崎は再び驚いた表情をすると、オレの顔をマジマジと見た。何故自分の色恋話を聞きたがるのだろうと訝しんでいるようだ。

しかしオレの真剣な顔を見ると、息を吐く。
そして膝の上の拳をギュッと握りしめた。

「苦しいです」

「……… 」

「でも、オレは見てるだけでもいいかなって思ったんです。たまさんのことが好きだから、たまさんが幸せでいてくれるのを遠く見守れたらいいって思うんです」

「 見守る…」

オレの呟きに山崎は頷いた。

「そこまで行き着くまで色々考えて苦しかったですけどね」

そう笑って言った山崎は本当に割り切れているようだ。

「そう、か…」

山崎は器の大きい男なのかもしれない。
自分と一緒にではない幸せを掴む女を見守る…。その考えはオレにはなかった。

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