第4章 No.4
これは、…ゆきの匂い…?
イヤまさか。たまたま柔軟剤か何かが同じの使ってたってだけだよな。
これは総悟の匂いではない。きっと手当てしてくれた人からの移り香だろう。
振り返って立ち去る総悟を見遣ると、その背中は普段にも増して機嫌がいいように見えた。
とある廃ビルに攘夷志士のアジトがあることが分かった。
潜入していた監察によると、今晩大きな麻薬取引がそのビルで行われるらしい。夜襲をかけ、一網打尽することになった。
『こちら2番隊。配置に着きました』
『こちら10番隊。配置に着きました』
無線から次々と各隊の配置完了報告が入る。
1番隊は正面から派手に進入。囮を兼ねる。
7番隊は裏口から。
2番、10番隊はビルの周囲を囲み、逃げ出した志士の捕獲だ。
4番隊は屋上から進入し、オレと5番隊は隣の雑居ビルから窓を伝って進入だ。
今は深夜0時前だ。
隣の雑居ビルの支配人には真選組の捕物の為の待機の許可を得ている。1階、2階では、幾つかの飲み屋がビル内でまだ営業しているが、オレたちの待機していた4階の店舗は全てすでに閉店し、立ち入り禁止にしていた。
取引は深夜0時。あと数分だ。
窓から廃ビルの様子を伺いながら、隊士たちの間に緊張感が走る。
と、その時
「あれ? え⁉︎ 何⁉︎ 真選組⁉︎」
背後から若い女の声が。
オレたちが驚いて振り返ると、掃除婦であろう女がバケツとモップを手に立っていた。
殺気立った隊士達の視線を一斉に受けて、女は「ひっ!」と言って立ち竦んだ。すぐに隊士の1人が声をかける。
「おい、今夜はこの階は立ち入り禁止にしてある筈だ。何故ここにいる?」
隊士の凄んだ声に女はビクッと肩を震わせた。
「す、すみません!私、夜間清掃の者で…。知らなくて…。あの、すぐに出て行きますので!」
そう言ってモップを持つ手をギュッと胸の前で握り、立ち去ろうとした。
「待て。お前、攘夷志士の仲間じゃないだろうな⁉︎」
隊士が詰め寄る。女はブンブンと頭を横に振り、「違います‼︎」と否定した。様子から言って、本当に只の一般人のようだ。
しかし、オレはその声に聞き覚えがあった。
もしかして…。
「ゆき…か?」
オレの声に掃除婦の女はハッとこちらを見る。薄暗がりから出て、僅かな月明かりが当たり、女の顔が見えた。