第19章 No.19
ヤバいよな、コレ。
倦怠期を拗らせてもし別れることになんてなったら最悪だ。今のオレはハッキリ言ってゆきにずっぷりハマってる。情けねぇが今振られたら立ち直れる気がしねぇ。
泣く子も黙る真選組の鬼の副長、しかしオレとて一人の人間なのだ。
自然とタバコの本数が増え、携帯灰皿はすぐに一杯になった。
「トシさん…」
か細い声が聞こえ振り向くと、俯いたゆきが立っていた。
「ゆき、お疲れさん。さぁ、帰ろう」
ゆきの暗い雰囲気を紛らわせるかのように、オレは努めて明るく言った。そしてゆきの手を取るとしっかりと握り、歩き出す。
いつもならあれこれと喋り出すゆきが、俯いたまま無言で歩く。
「ゆき、ノド乾かねぇ?そこの自販機で飲み物でも買うか?」
「結構です」
「あ、そう…」
沈黙に耐え兼ねて絞り出したオレの一言は、ゆきにバッサリ切られた。
「あー、ゆき、山崎が今日庭でミントンしてやがったんだが…」
「トシさん、お話があります」
再びチャレンジしたオレの言葉を今度は最後まで聞かずにゆきは遮った。
黒い瞳が強い光を持って真っ直ぐにオレを見つめる。
緊張のあまりゴクリと喉が鳴った。
なにコレ。ヤバくね?絶対聞いちゃダメなパターンじゃね?
しかし意に反して口は動いた。
「…なんだ?」
ゆきはそっとオレの手から自分の手を離した。
「ゆき…?」
「トシさん、別れて下さい」
ゆきの口から静かに放たれた言葉は、すぐにはオレの頭に入ってこなかった。
「え…? 今、なんて…?」
聞き返したオレに、ゆきは再度その口から残酷な言葉を紡いだ。
「私と別れて下さい。もうお店には来ないで下さい。夜も迎えに来ないで結構です」
一気に述べられた衝撃に頭の中が真っ白になる。
オレは信じられない気持ちで一杯だった。
「な、んでだ?急に …オレたち、上手くいってたじゃないか」
呆然と聞き返すオレに、ゆきは俯き、黙ったまま頭を横に振った。
オレは押し潰されそうな心臓を抑えるように、深く息を吸う。
「嫌だ。別れない」
ハッキリと言い切った。ゆきがハッと顔を上げる。悲しげなその目に胸が張り裂けそうだ。