第18章 No.18
「だ、大丈夫だ!なんともねぇ!全然平気だ!」
ゆきの手を引き、ズンズン歩き出す。頭の中は誘う言葉の選定に必死だ。
なんと言っても処女なのだ。露骨な表現はマズい。
『抱かせてくれ』? いやいや露骨すぎる。『オレのものになって欲しい』いや遠回しすぎか?
それとも…。
「ト、トシさんっ、もっとゆっくり歩いてっ!」
ゆきの言葉にハッと我に返る。随分強く引っ張って歩いたのか、ゆきはハァハァと息切れしていた。
「あ、すまねぇっ」
慌てて手を離すが、次の瞬間ピシッと固まる。
ラブホ街を過ぎていた…。
もう繁華街を抜けて、暗い住宅街の路地に入っていたのだ。
マ、マジか〜〜‼︎
ヘタレキング再び降臨だ。
「トシさん、やっぱり、今日は、変です」
息を切らせながらゆきが言う。
「あー…。すまねぇ」
ヤることばかり考えて、せっかくのゆきとの貴重な時間を疎かにしていたことを反省する。
「何か悩んでるんですか?」
「あ、いや…」
まさか“おまえとヤる方法を考えていた”、とは言えない。
そういえばこの3か月間、碌にデートもできなかった。オレが忙しすぎた所為だが、短い期間ではあったが真選組にいたゆきは、そんなオレに文句1つ言うでもなく理解を示してくれた。
そこでやっと気付く。
ゆきに対して、自分はなんと小さかったことか。
「…ゆき、すまなかった」
キョトンとするゆきを抱きしめる。
別にヤれなくてもいいじゃないか。この温もりが腕の中にあるだけでこんなに幸せだ。
オレの胸に擦り寄ってくるゆきの頭をサラサラと撫でた。
クイとゆきの顎を持ち上げると、潤んだ瞳がそっと閉じられる。薄く開いた小さな唇を味わうようにキスをする。柔らかい桃色の舌に絡めてやると、拙いながらも必死で応えようとするゆきがいじらしくて可愛い。
……やっぱヤりたい…。
またふりだしに戻った。
ええい。もうあれこれ考えるのはやめだ。思った事を言えばいいんだ。ゆきにはオレの情け無いところは嫌という程バレている。それでもオレの傍にいてくれるゆきの愛を信じよう。
「…ゆき。今日は、帰りたくねぇ」