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十四郎の恋愛白書 1

第16章 No.16


一瞬動揺したが、いつか来ると分かっていたことだ。

「…そうか。…幸せにしてやってくれ」

痛む胸に気付かぬフリをして、万事屋を真っ直ぐ見た。
しかし万事屋は「おいおい、最後まで聞けよ」とバナナの皮をゴミ箱に投げ入れた。
そして椅子にドカリと座り足を組むと、フイと横を向いて言った。

「フラれたんだよ」
「は⁉︎」

聞き間違いかと思った。

「だから!フラれたんだよ!何回も言わせんな!」

万事屋は真っ赤になって怒鳴った。

「え⁉︎ でも、総悟の話じゃ、おまえとゆきがいい雰囲気だって…」

動揺するオレに、万事屋はまたそっぽを向く。

「他に気になる男がいるんだとよ」
「はあ⁉︎ …つっ!」

思わず大声を出し、再び傷口が痛んだ。

「だ、誰だよ!そいつは!」

痛む腹を押さえながら問うが、万事屋は「知らねーよ」と口を尖らせる。

「護ってあげなきゃならねーヤツなんだとよ。ずっと傍にいると約束したんだと」

万事屋の言葉にオレは唖然とした。

なんだそれは‼︎
あんなか弱いゆきに護って貰おうとするなんて、男の風上にも置けねぇ‼︎

「オレは絶対ぇ認めねー‼︎‼︎」
「オレだって認めたくねーよ。でもそいつの事がすごく大切なんだって、幸せそうに笑うんだぜ。あんな顔見たら何も言えねーよ」

切なげに言う万事屋に、オレもぐっと口を噤む。

幸せそう、か…。

オレはゆきの幸せを願うと決めたんだ。
例え情けない男であろうとも、ゆきが選んだのなら……。

「………」
「………」

「…はぁ、何かノド乾いちまった。何かない?」

重たい沈黙を破るように万事屋が立ち上がり、勝手に備え付けの冷蔵庫を開け中を覗いた。

「お、ジュースあるじゃん。『飲んでいいです』って書いてある。もらうぜー」

表面上だけでも能天気に振る舞える万事屋を羨ましく感じた。
覚悟していた筈なのに、オレの胸の中には黒い大きな石がズシリとのしかかる。

「珍しいジュースだな」

万事屋の声にそちらを見遣った。
ベッドの横で黄色いペットボトルのジュースをゴクゴク飲んでいる。

しかし次の瞬間、ゴトリ、とペットボトルを落とした。
病室の床に黄色いジュースがトクトクと広がって行く。

「おい?!、何やってんだ!」
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