第38章 ~拾捌~CRY
暗い部屋の中、衣擦れと互いの息遣いしか聴こえない
甘く、熱い口付けはどちらからともなく繰り返され、舌の絡み合う音が余計に二人を刺激する
「どうして...」
……どうして?問い掛けはギンへ発したものではなくて、自分へのものだったような気がするけれど、撹拌され続ける脳内ではうまく判断ができない
重力任せに揺さぶられれば、余計に頭の中が掻きまわされて。引っぱり出されるのはどうしようもない切なさだった
「っは……ぁ…」
絹糸のような銀髪が、さらり、目の前で揺れる。伸ばした腕でそっと頭を包み込めば、姿勢が切なさを増幅させる。胸が痛い
こわごわと覗いた顔は、私の心を見透かすように美しく歪んでいて。その顔にまた、涙が溢れた
「………何で泣くん」
「………っふ、ぁ…」
「泣かんといて…」
ギンが唇で優しく涙を拭う
だが、涙は渇くことなく頬を伝った
苦しい
腫れ物に触るかのように、壊さないように至極優しく抱かれているのに、すごく苦しい
こんなにも悲しく、甘い行為は初めてだった
「...苦しい..」
行為がじゃない
心がだ
「...何が」
一段と低い声が目の前の薄い唇から漏れて。ぐるりと円を描くように内壁を刔られると、勝手に腰が揺れる
「っ……はっぁ、何も…」
「ホンマ…嘘つきや」
嬉しそうに眼を細めて、見下ろすギンの目尻は、泣いた後のように赤らんでいる。切なげに眉を顰めた顔は艶っぽさの中に、真実を映し出しているようで
「ギン……ギン…」
私は何度も何度も名前を呼ぶ
今、目の前にいる彼は、間違いなく私の知っている彼だ
私はその名を刷り込むように、何度も何度も呼び続けた