第35章 ~拾陸半々~INVADE3
「あぁ…そうだ、グリムジョー」
「……?」
「サラが随分と君にお世話になっているらしいね」
ドッと、突然息が詰まるような強い霊圧が背に重くのし掛かり、グリムジョーはその場から動く事が出来なくなった
「…彼女、従順で良い娘だろう?」
その言葉に背を向けたまま、目線だけを後ろに走らせる
其処には何処か狂気を宿した微笑みを浮かべる藍染の顔があった
藍染は《お前の行いを全て知っているぞ》とオレに言っている
《だからお前が自分の事を憎んでいる事も知っているぞ》と言っている
刹那の時を交えた瞳が、そう語っていた
「彼女には寂しい思いをさせているからね…。君が相手をしてくれているようでとても感謝してるんだ」
言葉とは裏腹に、藍染はその禍々しい霊圧を下げる気配は見られない
「…さぁ、もう下がっていいよ。ご苦労だったね」
「…ッ―― 」
グリムジョーは引き剥がすように藍染から視線を外すと玉座の間から出ていった
“サラは藍染様のものだという事を忘れるな”
先程言われた言葉が苦い想いと共に反芻される
わかってる
わかってんだよ!!
そんなもんは!!!
オレは完全なる禁忌を犯している
それは破面だという事以上に、自分が王で在る事を脅かすものだった
しかしそれでも今だに、さっき見たサラの瞳が忘れられない
サラの柔かな唇の温もりが忘れられない
女を抱きたいと想うのは、雄の本能なのだと思う
だが今感じているものはもっと暗く酷く醜いもののように思えた
「…ッ…くそったれが…」
沸きき上がる憎悪を吐き捨てるかのように呟く
オレは《虚》だ
所詮は、人の姿を借りた獣に過ぎない
だから一人の女にこんなにも執着しているのは少し異端な気がした
…否
違う
オレが《虚》だからこそ、このような感情を持つのかもしれない
あのドス黒い欲望こそがオレの正体なのだ
祈るように目を閉じるとサラの顔を想い浮かべようとした
だがそこには永遠と続く暗闇ばかりで、何も見る事は出来なかった