第30章 ~拾柶半~GOOD-BYE2
部屋に入った途端、喜助はズルズルと扉を背に崩れ落ちる
「サラさーん」
呼んでみると今にでもサラが顔を出しそうで
「サラさんドコ行ってたんスか?心配したんスよ」
そう言うと今にでも困った顔で笑いそうで
「サラ…」
どうして気付かなかった
笑ってる奥ではずっと泣いていたことを
どうして気付かなかった
自分を見つめる瞳が泣いていたことを
どうして気付かなかった
最期に見せた涙に―――
(黒崎さんに言われるのもムリもない…)
クク…と自嘲的に笑うと喜助は指輪を壁に投げつけようと手を掲げる
だがそのまま力が無くなったかの様にゆっくりと手を地面に付けた
自分の半身を突然もぎ取られる感覚に胸のなかに迸る激情のまま部屋の中の物に行き場の無くなった手をかける
倒された棚
引き裂かれた布
割れたガラス
喜助は自分への怒りをぶつける様に当たり散らした
暫くすると部屋の中は壊滅的で喜助は疲れたのか壁に項垂れていた
そんな喜助の瞳からはいつの間にか涙が流れていた
「……っ……ふっ…」
それに気付いた喜助の涙はあとからあとから溢れて、止まらなかった
「っ…ごめ……なさ…っく…」
喜助は泣いた
もう泣くことしか残っていないから
「サラ……」
喜助は泣いた
もう泣くことしか許されないから