第30章 ~拾柶半~GOOD-BYE2
私は長い時間、喜助さんを見つめていた
隣で気持ち良さそうに眠っている彼の髪をソッと撫でると、フワフワと柔らかい金色に近い細い髪の感触に目を細める
「綺麗…」
その端正な顔立ちに思わず呟いてしまう
私はちらりと窓に目を向けると浴衣を羽織り、風呂場へと下りていった
空に輝いていた月は薄く空と同化しかけていた
浴衣を脱ぎ風呂に入るとコックをひねる。シャワーが水からお湯へと変わり、シャワーを浴びる
目を閉じると、まぶたの裏に、喜助さんの顔が蘇ってくる
その声はとても優しく私の耳をくすぐり、その腕はとても熱く私を抱きしめる
私を撫でる手の感触にいつも優しさを感じて安心した
そう思うと、胸の奥から熱いものがせり上がってくる
「どうして…愛してるなんて…」
苦しいくらいの胸の動悸と、息苦しさで私はその場にしゃがみ込んだ
「私はその想いに応える事は出来ないのに…」
この人から離れなきゃいけない
いや、もう誰の側にも居られない
でもこれしか思い付かない
たとえ裏切る形になっても私は――
堪えていた涙が頬を伝う。一度流れた涙は止めどなく溢れ、それを隠す様にシャワーを頭から被った
「…っく……ふ…っ…」
もうやめるの…
自分の事で泣くのはこれが最後だから
私の汚れた気持ちはこの水と共に流して終りにするの
私は自分の中にある様々な想いを洗い流す様にシャワーに打たれ続けた