第30章 ~拾柶半~GOOD-BYE2
「…何をですか?」
「いや…それはまだ内緒です」
喜助さんは困った様に笑うと話を続けた
「そう思ったら、今まで澱んでくすんでいた世界が突然、鮮やかに色づいたんです。まぶしくて、目眩がするほど鮮やかに…」
そこまで言うと、喜助さんは自嘲気味に笑う
「おかしいでしょう?何百年も生きているアタシが、今更こんな気持ちになるなんて」
「………」
私は何も言うことが出来なかった
言葉にこそしないが何となく…いや、確実に言わんとする事が解る
でも今それを聴いてしまうと積み上げてきたものが簡単に崩されてしまいそうで
私は胸が締め付けられ息が出来くなりそうなほど苦しかった
もう迷いはない筈なのに…
もう戸惑いはない筈なのに…
どうしてこの人は今こんな事を言うのだろう
私は喜助さんの手に自分の手を重ねた
「?」
その手から私の身体へ喜助さんの自分への情が流れ込んでくる
父親のような
兄のような
友人のような
恋人のような…
どうして貴方はそんな瞳で私をみるの
「…………」
サラと喜助は無言のまま見つめ合った。そしてサラは空いている片方の手で喜助の頬に触れる
「!!」
頬に触れたその手の感触に、喜助は微かにピクッと身体を揺らした
どうして貴方は――
儚げな月の光に照らされたサラの顔が、だんだんと近づく
「サラさ――!?」
サラは目を閉じると喜助の唇に自分の唇を重ねた
その口付けは甘く、そして喜助を慈しむ温かさだった
喜助はサラの揺れる瞳から目を放せなかった
むしろ吸い込まれる様に、まるで何かの暗示にかかったかのように、身体を動かすこともできず、サラの口づけを受け入れた
サラの脳裏に喜助の瞳が浮かぶ
夢なら夢のままでと願いすらした二人の想い出
想い出だけなら、もう思い出さずどこかに閉じ込めておきたい。このまま何も話さず一緒にいれるだけいようか
いっそ全てを打ち明けようか
でも出来ない…
自分の為じゃない
全てを失う自分の恐怖心がそれに歯止めをかけていた
サラは長い口付けからゆっくりと唇を放すと唇が触れそうな距離で喜助を見つめた