第8章 ~伍~NEW
サラが自室に戻ったのを確認し、夜一は口を開いた
「喜助…サラはどこまで知っておるのじゃ?」
「彼女の記憶は生前の幼い時で止まっています。なので自分が魂魄であるという事は知っています。…しかし死神である事は教えていません」
「それが賢明じゃろう。それでなくても記憶を失うほど事があったであろうに…」
「教えるにしてもまだ時期じゃない。それで…何か解りましたか?」
「いや、長いこと潜入してみたが解ったのはサラが王属特務の零番隊隊長であった事、何らかの事件に捲き込まれて死亡したとされている事、そして屍は見付かっておらぬという事だけじゃな」
「零番隊の隊長…私達が居ない間に随分成長したんスね...で、ある事件とは?」
「それがどうしても情報が出てこんのだ。極秘事項に指定されているらしい」
「という事は真相を知っているのは護廷十三隊の隊長格のみ…」
「あぁ。流石に儂もそこまで手は回せんからな。…まぁ死んだとされる者を追ってくる輩も居らんじゃろ」
「そうッスね…」
少し腑に落ちない顔の喜助に夜一は問う
「時に喜助、御主に聴きたい事がある」
「何ですか夜一さん」
「何故サラに初対面の振りをする?死神の事は話せないにしても御主の事は話せるではないか」
その言葉に喜助は笑みを浮かべる
「…"話さない"んじゃない。"話せない"んスよ。…こっちに身を隠してから一度も忘れた事は無かった。そんな時思いがけず再会した彼女は私を覚えてはいなかった…」
「それは記憶が――」
「えぇ。彼女に知り合いかと聴かれた時どうしようもなく寂しくなってしまった…アタシの事を話してしまえば簡単なんスけど出来なくて…それはアタシの記憶であって彼女の記憶じゃない」
「……馬鹿じゃのう…」
「大の大人が情けないッスよね?でも思い出して欲しいです。ちゃんと自分の心で――」
その寂しそうな瞳に夜一は溜息をついた
「…ならもう儂も何も言うまい…」
喜助のサラへの想いに夜一は何かを感じとっていた
それは友とも妹とも娘とも違う感情―――
その想いはまだまだ小さく儚い為に誰も気付く事はないだろう
夜一は喜助が自分自身でそれに気付くまで胸の中にしまっておこうと誓った