桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第10章 I.
「あ、そう言えば…」
翔さんの家が遠く見えなくなったところで、俺はポケットの中に捻じ込んだ封筒を取り出した。
「何です、それ」
「翔さんのお母さんからなんだけど…」
改めて封筒の中を覗き、中身を膝の上に出した。
「嘘だろ…?」
封筒の中には、現金が10万円と、翔さん名義の通帳と印鑑、それにキャッシュカード、後は…マンションのカードキーが入っていた。
俺は恐る恐る通帳を開いた。
「マジか…」
そこには見たこともないような数字が並んでいて、俺の通帳を持つ手が少しだけ震えたのを感じた。
「どうしようニノ…。こんなの預かれないよ…」
俺は震える手で現金と通帳を封筒に戻すと、情けない声を上げた。
「まあ、確かにね…」
「だろ? それこそ金目当てだって思われそうじゃん?」
「でもさ、考えてもご覧よ? 今後のこと考えるとさ、必要なんじゃないですか?」
それはそうだけど…
”金目当て”だなんて、誤解はされたくないんだ。
「とりあえずさ、預かっといたら? で、最悪…」
言いかけてニノが先の言葉を飲み込んだ。
でも言わなくても俺には分かる。
今はいい。
俺がバイトの間はニノが翔さんを見ててくれるから…
でもこの先のことなんて、はっきり言って想像もつかない。
「はあ…、分かった。一応預かっておくよ」
溜息を一つ落として、俺は封筒をポケットにまた捻じ込んだ。
I.ー完ー