桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第10章 I.
「それで…その…」
顔を上げたものの、口の中がカラッカラに乾いていて、俺はテーブルの上の、すっかり冷めてしまった紅茶を一気に飲み干した。
見るからに高級そうなティーカップを、揃いの皿の上にガチャンと音を立てて置くと、俺は一つ咳払いをした。
「実は今日、ここへ来る前に病院へ寄って来たんです。ちょっと翔さんの状態が気になって…」
銀縁の向こうの目が、俺をギロリと睨む。
その目が氷のように冷たくて…
俺は背中に冷たい物を感じた。
「で? どうだったんだ? 勿体ぶらずに、ハッキリ言ったらどうだ?」
まるで牽制するような物言いに、俺の心臓が更に縮み上がる。
でもここで怯んでちゃダメなんだ。
俺は自分に言い聞かせるように、大きく息を吸い込み、一気にそれを吐き出した。
「翔さん保険証とか持ってなかったんで、知り合いの医師にお願いして、簡単な検査をして貰ったんです」
「それで? その先生はなんて?」
お母さんが少しだけ身を乗り出す。
膝の上で絡めた指が、心なしか震えて見える。
「あくまで正式な検査ではないので、確実にそうだとは言いきれないんですけど、その医師の見立てでは、翔さんは“若年性アルツハイマー型認知症”じゃないか、って…」
瞬間、グラリとお母さんの身体が揺れた。