桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第8章 SAKURAI
途切れがちだった会話が完全に止まった時、車窓を流れる景色が、見覚えのある風景へと変わった。
「ニノ、そこで停めてくれる?」
運転席と助手席の間から身を乗り出し、前方を指さす。
その先に見えるのは、俺達の青春の象徴とも言える建物。
「懐かしいですね…」
ニノがポツリ言う。
ニノも、そして俺も、久しくこの街には帰って来てなかったから、胸に込み上げてくる懐かしさは一入だ。
俺は肩に頭を預けて眠る翔さんを揺り起こした。
「見て? 懐かしいでしょ?」
この風景を、翔さんだってきっと懐かしく思う筈…
そう思って、俺は未だに鮮明に残る翔さんの姿を、嬉嬉として話して聞かせた。
覚えてる、そう思っていたんだ。
でも、現実はそうじゃなかった。
俺がどんなに思い出を話して聞かせても、翔さんの顔に笑顔が浮かぶことは一向にない。
ダメか…
「覚えてないか…」
俺はシートに深く身体を埋め、ため息を一つ落とした。
「…ごめん」
隣で翔さんがポツリ呟く。
そしてそれまで握っていた手が、そっと解かれた。
項垂れた肩が揺れている。
泣いてるんだ…そう思った。
でも違ったんだ。
「うぁぁぁっーーーーーーっ!!!!」
激しく頭を掻き毟り、悲鳴にも似た叫びを上げる翔さんを、腕に抱きとめた。