桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第7章 I
何もかもが怖くて仕方がない。
今、俺の目の前でいかにも人の良さそうな顔したこの男も…
俺達を取り囲む、周囲のざわつきさえも…全ての物に恐怖を感じる。
第一、この男が何を考えているのか、俺にはさっぱり分からない。
物腰は至って柔らかだが、俺を見る目は全てを見透かしているような、そんな気がしてならない。
テーブルの上に並べられた、この三つの物に、一体何の意味があるんだろう?
分からない…
ただ怖くて、自然に震え出す両手を、ギュッと握り締めることしかで出来ない。
そしてわけも分からず込み上げてくる怒りにも似た感情。
とうとう堪えられなくなった俺は、苛立ち交じりに席を立った。
「俺、急ぐんで…。行くよ、智君」
気付いた時には、堪らず智君の腕を掴んで一歩を踏み出そうとしていた。
急いでどこに行くのかなって、分からなかった。
ただただこの場から、恐怖しか感じられないこの空間から、一刻も早く立ち去りたい…その一心だった。
それなのに…
「これで終わりにするから…」
顔色一つ変えることなく言う男。
そして「座ろ?」と言って俺を椅子へと引き戻そうとする智君。
俺は納得いかない思いを胸に抱えたまま、智君の頼みならば、と自分に言い聞かせて再び椅子に腰を下ろした。