桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第4章 U
自分がおかしい…
それは薄々気付いていた。
時折飛ぶ記憶。
自分では理解出来ない言動の数々。
そう、まるで俺が俺じゃなくなるみたいな…
始めはそんな感覚だった。
でもそれは日を追うごとに増えて行き、ついには一日丸っと記憶が抜け落ちることも…
結果俺は、会社を辞めた。
いや、違うな…
“辞めた”と言う言い方には、少々語弊があるかもしれない。
同僚の話によれば、取引先との商談の際に、俺がとった不可解な行動が、会社に多大な損害をもたらした結果、俺は会社から三行半を突き付けられたそうだ。
もっとも、俺にその記憶はない。
失意のどん底にいた俺は、街を一人彷徨い歩いた…と、そこまでは自分でも記憶している。
でも…
今のこの現状は…一体?
部屋を見回してみても、明らかに俺の記憶の片隅にある自分の部屋ではない。
それに、だ…
この隣にいる男は…誰だ…?
分からない…
考えれば考える程、自分の置かれた現状が分からなくなる。
俺は身じろぎ一つ出来ない狭いベッドの中で、首だけを隣で眠る、見覚えのない男に向けた。
その時だった。
その男の瞼がパチッと音を立てて開いた。
そして俺と目が合うと、フッとその顔を綻ばせた。
あっ…その顔は…
「智…くん…?」
それは不意に俺の口を付いて出た、懐かしい名前だった。