桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第14章 SAKURABA
「俺、病気の事は今一良く分かんないけどさ、もし君のことを俺の名前で呼んだんだとしたら、それはただ単に、新しい事が記憶出来なかったから、じゃないのかな? 俺の名前を呼びながら、心では君の名前を呼んでたんじゃないかな?」
「そんな…」
グラグラと揺れる足元に、立っているのがやっとだった。
俺は手で顔を覆い、何度も首を横に振った。
「ねぇ、会って上げなよ? 待ってるよ、翔が…」
大野先輩が俺の肩を一つ叩いて、
「じゃ、俺はもう行くから…」
そう言って俺の横を通り抜けた時、フワッと甘い香りが鼻先を掠めた。
翔さんが好んで付けていた、あの香りと同じだった。
ああ、この人はまだ翔さんの事を…
何故かそう思った。
俺は大野先輩が立ち去った後、墓石の前に胡座をかき、ずっと目の前の墓石を見上げていた。
大野先輩が言った通り、本当に翔さんは俺を待っていたんだろうか…?
本当に翔さんは俺の事を…?
頭の中に、いくつもの疑問が、浮かんでは消えて言った。
「あ、そうだ…」
俺は思い出したようにリュックを開けると、中から保温効果のあるポットを取り出した。
中には、少し温めのカフェオレが入っている。
「翔さんさ、俺の煎れたカフェオレ、美味いって良く言ってたでしょ? だからさ、今日は一緒に飲もうと思って持ってきたんだ」
持ってきた紙コップを二つ並べて、そこにカフェオレを注ぐと、一つを墓石の前に置いた。