桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第13章 AIBA
一向に止む気配のない雨を忌々しく思いながら、眠ったままの翔さんを部屋に残して、俺はコンビニへとバイクを走らせた。
冷蔵庫の中は空っぽだったから…
途中スマホを持って出るのを忘れたことを思い出したが、すぐに戻るんだからと、取りに帰ることはしなかった。
一通り買い物を済ませ、コンビニを出た時、一台の救急車が、けたたましいサイレンを響かせながら、俺の目の前を通り過ぎて行った。
救急車はコンビニの角を曲がり、アパートの方角へ向かって走って行く。
それを見ながら、俺は急いでバイクにまたがると、メットも被ることなく、バイクを発進させた。
嫌な予感がした。
胸がざわついて仕方なかった。
きっと違う、俺の思い過ごしだ。
落ち着け、落ち着くんだ…
何度も自分に言い聞かせた。
でも不安は胸の奥に募っていくばかりで…
アパートの前に停まる救急車を見た瞬間、俺はバイクを投げ出し、泥に足を取られながら、足を縺れさせながら、走り出していた。
アパートの階段下に群がる幾つもの傘の間をすり抜け、救急隊員を力任せに押し退けた。
「君…!」
制止する声なんて、俺の耳に届いてなかった。
「翔さん! なんで、どうして!」
「君、落ち着いて」
叫ぶ俺を、一人の救急隊員が取り押さえた。
「放せ! 放せってば! 翔さん、翔!」
俺の叫びは、一層強く降り始めた雨音と、救急車のサイレンに掻き消された。