桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第13章 AIBA
「ご心配されるような事、何もありませんから」
話をしたいと言う福祉員に、ドアから顔だけを出して答えた。
「お部屋の中、見させて貰えませんか?」
尚も食い下がる福祉員に、苛立つ。
「こんなこと言いたくありませんが、虐待の疑いもあることですし、お話だけでも…」
“虐待”…
その言葉に、俺の胸がズキンと大きな痛みが走った。
俺にはそんな意識は全くなかったから…
「虐待なんてしてませんし、話すこともありませんから、お引き取り下さい」
俺はそれだけ言うと、ドアを乱暴に閉め、中から鍵をかけた。
俺が翔さんを虐待してる…?
そんな筈ない。
俺はただ翔さんと…
どうしたいんだろう…
部屋に戻り、ベッドに横たわった翔さんを見下ろす。
「起きてたの?」
見開いた二つの瞳は俺を見ることはない。
「ねぇ、翔さん? 俺さ、もう疲れちゃったよ…」
ポツリポツリと落ちた雫が、翔さんの痩せこけた頬を濡らして行く。
「…いっそのこと二人で死んじゃおっか…」
そしたら翔さんだって楽になれるかもしれない。
俺だって翔さんのこんな姿、もう見なくても済むんだし…
そうだ…
翔さんを殺して、俺も…
俺は翔さんの細くなった首に手をかけた。
「ゴメンね、翔さん…」
ゆっくりと指に力を込めた。