桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第13章 AIBA
キッチンに戻ると、俺はビニールの袋を手に、汚れた服やら、ティッシュやらを一纏めにし、二重にした袋の口をキュッと縛った。
「コレ外出してくるわ…」
ニノに言い残し、部屋を出て、アパートのゴミ置き場に向かった。
途中隣の住人と擦れ違ったけど、挨拶を交わすことはなかった。
ちょっと前までは、顔を合わせれば軽く言葉を交わすこともあったのに…
今じゃ、コッチが頭を下げても、怪訝そうな目で一瞥するだけで、すぐに視線を逸らしてしまう。
ずっしりと思い気持ちを抱えたまま部屋に戻ると、充満する匂いに、目眩を起こしそうになる。
この匂いだけは、消臭剤をどれだけ振り撒いても、なかなかな消えることはない。
「おかえり。コーヒー煎れといたから。飲むでしょ?」
“おかえり”なんて言う程の距離でもないのに、そう言って貰えることに、張り詰めていた心が冷静さを取り戻していくから、不思議だ。
「せっかく来て貰ったのに…悪かったね?」
ダイニングの椅子に腰を下ろした俺の前に、コーヒーの入ったマグが置かれた。
「別に構いませんよ? 逆に何もして上げられなくて、ゴメンね?」
ニノが俺に向かって頭を下げる。
どうして?
ニノが謝る必要なんてないのに…
怪我をしたから?
そのせいで翔さんの世話が出来なくなったから?
違うでしょ?
それだって、元を正せば翔さんが暴れたから…
俺がニノに甘えたから…
謝んなきゃいけないの、俺なのに…