第3章 憧憬
「随分お疲れだね?」
聞き慣れた声に体がビクッとする。
「ごめんごめん。」
「驚かせちゃったね。」
振り向くと目が合う。
「すみませんっ」
「あはは。謝らなくて良いよ。」
そう言って、笑ってくれる。
「今日は、随分お疲れみたいだけど?」
「えっと…実は収録直前まで朝から雑誌の撮影があって。」
「半日撮影?さすが注目されてる人は違うね?」
「いえいえ。そんなことは…」
「謙遜しない。頑張ってるんだから。」
「毎日仕事に追われてて、何やってるのか掴めてないんです。」
視線を床へと落とす。
「でも。デビュー作後も仕事もファンも増えてるんでしょ?」
「そうなんですけど…」
「人気を維持してるって事は、それだけキミが努力してるって事なんだから。」
「自信持っても良いんじゃないかな?」
「って、俺が偉そうに言える立場じゃないけどね。」
肩をポンッと叩き笑いかけてくれた。
「あ…ありがとうございます。」
予想外の嬉しい言葉に言葉が詰まる。
「じゃあ、また来週ね?」
手を振りながら廊下を進む姿を目で追う。
声を掛けて貰えた。
『自信持っても良いんじゃないかな』
それだけで疲れなんて吹き飛ぶの。
嬉しくて嬉しくて。
触れられた肩が熱い。
自分の肩を擦り、触れた手を頬へ寄せた。