第10章 虚威
鼻腔を擽る香りに抱き締められてるんだと認識する。
優しく撫でられる髪。
耳元で感じる心拍。
目を閉じて、その音に耳を傾ければ闇は何処かへ消えていく。
大きく息を吸い込み吐き出す。
「達央さん…離して下さい。」
「もう大丈夫です。」
「失礼な事を言ってしまい申し訳ありませんでした…」
「大丈夫そうだな?」
コクッと頷けば、解放される身体。
「もう仕事終わり?」
「そうですけど…」
「送ってやるよ。付いて来な。」
いつの間にか人差し指でグルグル回される鍵。
カチャカチャとぶつかる音が響いた。