第76章 熱誠※
リビングのカーテンを開けて、外を眺めた。
まだ明けきれない夜。
遠くに見えるタワーの光はもう消えている。
ガウンのポケットに入れたスマホを取り出し名前を探す。
この行為も慣れたもの。
『今夜行ってもいいですか?』
送信をタップしても既読にもならない。
「こんな時間に起きてるわけ無いか…」
ポツリと呟き視線を再び外へ移す。
もう少ししたら季節も変わる。
いい加減私も変わらないと。
小さくため息をついてスマホをポケットにしまう。
「ため息なんてついてどうしたの?」
後ろから抱きしめられて、耳元で囁かれた。
「信彦さん…起こしちゃいました?」
「うぅん。目が覚めたら日菜乃ちゃんがいないから探しに来ちゃった。」
「んー。落ち着く香り。」
「くすぐったいですよ。」
ふわふわの髪に手を伸ばして、そっと撫でればお返しのようにこめかみに柔らかいキスを落とされる。
「朝焼けですよ?」
「本当だ。」
ベランダへ続く窓を開けると涼しい風が頬を撫でた。
「この時間はまだ気温上がらないんだね。」
私の頬に信彦さんは自分の頬をつけて、同じ方向を眺める。
「そうですね。体を動かすには調度いい。」
「目も覚めちゃったし、これから一緒に走りに行こうか?」
顔を覗き込まれると優しい視線に胸の奥がチリッと痛む。
「そうですね。」
「あ。またキャップ貸して貰えます?」
「もちろん。」
くるりと向きを変えてパタパタと走る信彦さん。
「もう前に進もう。」
もう一度昇りかけた太陽に目を細めた。