第71章 伏目*
「っ…!…はぁ…はぁ…」
ぱっと瞼を開けると広がる白い天井。
目だけ動かし、周りを確認しても何の代わり映えもしないリビング。
その間も乱れ続ける呼吸。
滲む汗。
「何を恐れてるんだか…」
腕を瞼に乗せて失笑する。
「そんなに恐いなら問い質せばいいのに。」
…どうせ出来ないくせに。
心の奥で誰かが笑う。
「…!」
苛立ちを解放すべく、横になっていたソファーを叩くものの無駄に質の良い生地は心地良い反発を返すのみ。
「痛みで気が反らせると思ったのにな。」
…そんなに上手く行かないよ。
頭に響く聞き覚えのある声に流れる汗は止まらない。
…世の中思い通りには行かないからね。
…自分がよく分かってるだろう?
心の奥に住み着いた何かが返す。
「何なんだよ…!」
………
「どうしちゃったんだよ…」
首を横に振って、木霊する声を振り払う。
「ここにいたら、気が狂いそう。」
横になっていたソファーから立ち上がりリビングを横切る。
「もう休もう。」
キャビネットにしまった部屋着に着替え、寝室に入る。
「ゆっくりしてきてって言ったのは、ボクだし。」
まるで自分に言い聞かせるようにブツブツと言葉は続く。
「うん。本当に友達かもしれないし。」
クスクス笑う声がした気がしたけど。
多分気のせい。
ボクは…
信じてるから。
ベッドに潜り込み、照明を落とす。
逃げてる訳じゃ無いんだから…。