第66章 明星
コーヒーカップを手にしながら、窓辺に近づき外を眺める。
視線の先に広がる景色は藍色の世界。
夜でもない。
朝でもない。
中途半端な空が広がっている。
遠くの空には微かに浮かぶ小さな星。
もう少しすれば消えて見えなくなるだろう。
オレもすぐにでも消えた方がアイツのため。
分かってるのに…
それでも求めてしまう。
どうしようもない。
「ヒナに逢いたい…」
ポツリと溢した言葉に苦笑する。
本当に………どうしようもないな。
冷えたカップに口を付ける。
流れ込むコーヒーは、やっぱり冷たくて。
食道を通り、胃に広がる感覚は何故だか虚しくさせる。
視線を外へと戻せば、徐々に明るくなる空。
微かに見えた星はいつの間にか消え去っていた。
夜になれば、また当たり前のように広がる夜空。
当たり前のようにヒナをこの手で抱き締められればどんなに幸せか。
それが出来るノブが羨ましいよ。
今も当たり前のようにヒナの隣で眠り。
目を覚ませばヒナがいる。
オレには訪れることの無い時間。
「それでいいんだ。」
「たまに逢えればそれでいい。」
「自分で望んだ結果なんだから。」
そう言い聞かせ、冷え切ったコーヒーを飲み干した。