第60章 還御
『お疲れさまです。』
『ずっと連絡しないで、ごめんなさい。』
『そっとしてくれて、ありがとうございます。』
『明日家に帰ろうと思います。』
『岡本さんは、明日はお仕事ですか?』
突然のメッセージに手にしたスマホを落とす。
「ノブどうした?」
「動揺の色が隠せてないけど。」
「すみません!」
「その隙にもーらいっ」
「うぅ…良平さん…ボクの肉…」
目の前の大皿にあったステーキが奪われていく。
「……でも…いいんです。」
頬が緩むのを見えないように下を向く。
「何笑ってるの?」
代永さんが何かを察知したように問う。
「えっと…良いことがあって。」
「日菜乃ちゃんの事?」
「…そうです……」
「もしかして帰ってくるのかな?」
「代永さん…何で知ってるんですか?」
少人数にしか言ってないはずなのに噂っていつの間にか広まる。
「んー。ちょっとね。」
苦笑いしながら、眉を寄せる。
「え?何の話?」
江口くんは知らないみたいだけど。
「江口には教えない。」
良平さんがすかさず会話に入ってくる。
『教えない』って事は、やっぱり良平さんも知ってるんだ…。
タツさんの耳には?
でも、いいんだ。
だって。日菜乃ちゃんはボクのところに帰ってくるんだから。
目の前のグラスに浮かぶ結露が滴になって下に落ちる。
「何なんだよー。」
気の抜けた声が耳に届き我に返る。
……拗ねても教えないんだから。
「ちょっと席外しますね。」
個室の扉を開けて、廊下を抜けた。