第59章 花莚
能登さんの家に来て数日。
いきなり帰ったらどう思うかな…
飛び出して、連絡もしなくて…。
そもそも家に岡本さんがいるかも分からない。
言い訳ばかりが溢れて溺れそう。
戻ると決めたのに、こうしてモヤモヤしながら時間は過ぎる。
「日菜乃?」
「いつまでそうしてるの?」
顔を上げれば能登さんが顔をのぞき込む。
「もう決めてるんでしょう?」
微笑む顔に言葉が詰まる。
「能登さっ…」
「ほらほら。泣かないの。」
背中を優しく撫でる仕草に胸のつかえが取れるよう。
「日菜乃?」
「これから先も沢山沢山悩みなさい。」
「悩んだ結果がその度変わったっていいじゃない。」
「その時に出した答えがその時の最善策なんだから。」
「日菜乃の出した答えなら、私はいつだって応援するわ。」
「私はいつでも日菜乃の味方だから。」
「それだけは、しっかり覚えておいて。」
背中をさする感覚は、すごく優しくて。
『味方だから』そう言ってくれる能登さんの優しさに涙が溢れる。
「能登さん…っ…ありがとう…ございます」
「遠慮なんてしないで、いつでもいらっしゃい。」
「ツラい時はいつでも言いなさい。」
「嬉しい時はその喜びを聞かせてちょうだい。」
「分かった?返事は?」
「はい!」
鼻をすすって、何度も頷いた。