第58章 点綴
「鈴木様いらっしゃいました。」
少し先を歩くスタッフが奥にいる店の主人を呼び寄せる。
「随分お急ぎですこと。」
グレイのスーツに赤いパンプス。
長い髪を後ろに纏めて、こちらに向かい歩みを進める。
「うるせーよ。」
「ちゃんと用意しておいたけどね?」
「お礼くらい言って欲しいものだけど。」
「はい。どーぞ?」
案内された個室に並べられた数点のパンプス。
色は指定した通りの暖色系。
赤にピンクにオレンジ。
濃淡に合わせ整列した姿は綺麗なグラデーション。
あいつが見たら喜ぶんだろうな。
そんな想像に頬が緩む。
並べられた靴を手に取り感触を確かめる。
「これなら痛くねーか。」
「ふぅ~ん?そんなとこまで気にするんだー。」
「今回は、随分必死ですこと。」
「だから。うるせーよ。」
手に取ったパンプスを差し出す。
「これで。すぐ使うから箱は破棄して。」
「はいはーい。では、こちらで?」
金額を掲示されて一瞬戸惑う。
「足下見やがって…」
悪態をついて、近くにいたスタッフにカードを渡せば慣れた手つきで決済を済ませる。
「うちの商品は、ご存知の通り全て一点もの。」
手渡されたショップバックを受け取り、出口を目指す。
「急かして悪かったよ。助かった。」
「今度は、もう少し時間ちょうだいね?」
「そうだ。うちの靴は一点ものだから。」
「知ってるし。さっき聞いたよ。」
「シンデレラには調度いい。」
「…ははは。……時間を掛けても探し出せるな?」
そう言えば、笑ってくれる。
何でもお見通しか。
ワガママ言える友人に感謝するよ。
あいつにも、そんなヤツがいるのか?
あいつの事なんて…何も知らねーけどな。