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逢ふことの(裏)~声優さんと一緒~

第58章 点綴


ここにいることが間違ってるって分かってる。

それでも…心のどこかではこの場所に戻りたいと思ってた。

認めたくない事実だったけど。

これが現実。

あのまま帰っても良かったのに。

車に乗らずに別の場所に行くことだって出来たのに。

それでも、達央さんの車に乗って今も帰らずにここにいる。

分かってる…

ここが場違いだってことくらい。



そんなことを考えながらも膝を抱えて見つめる先には点滅し続けるスマホ。

出られないなら見なければいいのに。

なにも出来ないくせに…。

心の中で悪態をついても視界の端で見続けてしまう。

優柔不断で何も出来ない。

こんな自分を変えたいのに。

何も変わらない…。

それどころか悪くなって行く一方。

さっきから何度ため息を付いているか分からない。

後悔してるなら行動すればいいのに。

思いと行動が、伴わない。

今にも体がバラバラに崩壊しそうなのに。

ジタバタもがけば、どんどん深みにはまっていく。

息をするのも苦しい。

どうしたら水面に顔を出せるのだろう。

額に膝を付けて再度大きくため息をついた……。


瞼を閉じて視界を閉ざしても神経は隣を気にして耳を傾けてしまう。

自分でも分かってる。

どうすればいいかなんて。

それでも…今の私には前に進む勇気なんて…残ってない。

逃げることしか出来ないから。

だからこうして瞼を閉じる。



どれくらい時間が経ったんだろう。

瞼を開けば再び見てしまう投げ捨てたスマホ。

ふと、変わる画面に表示された名前に息を飲んだ。

自然と姿勢を正し背筋は伸びる。

息をのみ、画面をタップし耳元へ…。


「はい…水澤です。」

いつも通りの透き通る声。

聞けば一瞬で空気が変わる。

さわやかな風が吹き抜けるような。

そして包み込まれるような暖かい空気感。

一瞬で胸のもやもやも晴れるよう…

そう…

私はいつも甘えてばかり。

情けなくて泣けてくる。

私はいつも泣いてばかり。
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