第56章 把持
「これはどうかな?」
「素敵ですね。」
「これは?」
「あ。可愛い。」
次々に並べられるサンダルにパンプス。
色んな色で目移りしてしまう。
「履いてみなよ?」
そう言われて、真新しい靴を履く。
「わー。すごく似合うね。」
「でも、ボクはこっちが好きかも。」
腕を組んで首をかしげる岡本さん。
その顔を見て思わず私は笑ってしまう。
「随分熱心に選んで下さるんですね?」
スタッフさんがニコニコしながら声を掛ける。
「すみません。こんなに荒らして。」
床にスタンバイした数足の靴を見つめて軽く頭を下げた。
「こんなに真剣に選んで下さる方ってなかなかいらっしゃらないので。」
「どれも似合っちゃうので困りものです。」
褒められる事に慣れてない私は、可愛い反応なんて出来ない。
こう言う時は、どうすればいいんだろう?
今の私は俯くことで精いっぱい。
俯いたその先白い床を見つめた。