第51章 一笑
小走りで階段を下りる。
帰ったら少し走るかな。
そう思いながら歩みを進める。
5階4階と順調に階段を下りる。
次にヒナに会えるのはいつになるのか。
会えないときは年単位で会えない。
ライブに誘ったら…
いや。ノブを呼べてもヒナは無理だろう。
何考えてるんだか…。
この手でヒナの肌に触れたい。
この前触れた感覚。
忘れられない。
「ヒナに会いたい…」
誰もいなければこんなに素直に言えるのにな…
一段一段下りた足元に何かが触れる感覚。
視線を落とせばスマホ。
バックにポーチにタオル…
その先に座り込む女性。
「おい!大丈夫か?」
肩を掴んで揺する。
顔を覗き込むと驚きに一瞬ひるむ。
「ヒナ!おい!」
軽く頬に触れもう一度肩を揺する。
「ヒナ!ヒナ!」
細く開く瞳。
眠そうにこちらへ視線を向ける。
「ヒナ?落ちたのか?ケガは?」
「んっ…?あれ?達央さん?何でここに?」
「痛っ!」
手を付いて身体を起こすように前屈みになると痛そうに眉をひそめる。
視線を足下へ落とせば赤く腫れた膝と足首。
「派手にいったな。」
「立てるか?」
手を差し出してもヒナは一向に手を出さない。
「大丈夫です。」
「あのなぁ…どう見たって大丈夫じゃないだろ?」
「そんなに俺に頼りたくないならノブを呼べば良いだろ?」
「ほら。」
拾い上げたヒナのスマホを差し出す。
「………」
スマホを受け取り胸元に引き寄せたまま黙って床を見つめる。
「おい。」
「…りです。」
「あ?」
「無理です!岡本さんには負担掛けたくないんです。」
「そのうち落ち着くと思うので放っておいて下さい。」
握りしめたスマホ。
そんなに力を込めるなよ…
何を強がってるんだか。
ふぅっと大きく息を吐き出し、散らかった荷物を無造作にバックに詰める。
「放っておいて下さい!」
「大丈夫です!」
何に遠慮してるんだか…
遠慮する場合じゃないだろうが。
無意識に出た舌打ち。
思い通りにいかないもんだよ。
相当苛だってんなー。
そんな自分に笑えてくるよ。