第49章 振幅
抱き締められる感覚に自分が置かれている立場が分からなくなる。
視線を落とせば、筋肉質な腕。
耳元に感じる吐息。
懐かしい匂いが鼻腔を擽った。
「達…央…さん?」
戸惑いが声に現れてるのも自分でも分かる。
「何も言うな…」
そう言って、力が込められた。
懐かしい感覚に瞼を閉じる。
「ヒナ…。」
「突然変なこと言うけど…ごめん。」
一度大きく息を吸ったと思うとゆっくり吐き出す。
一瞬の沈黙が永遠のように感じた。
閉じたままの瞼は視界を遮り、神経は背中と耳に集中する。
「俺さ。ずっとヒナが好きだったんだ。」
「最初は興味本位だったけど。」
「いつの間にか…ヒナを1番に想うようになってた。」
「ノブの事を想ってるって分かってるのにヒナに惹かれてた。」
「何度も諦めようと思っても、心とは裏腹にカラダは正直で…」
「何度も何度もヒナを求めてた。」
「でも………」
「ノブと…」
「だから俺は諦めようって。」
「涙を拭う事も出来ないなら、触れる事が出来ないなら…」
「今なら引き返せるって。」
「………随分我慢したんだけどな。」
「やっと割り切れたと思ってたのに。」
「やっぱりヒナに逢いたいんだ。」
「ヒナに触れたいんだ。」
「今日だって…手伝いなんてただの口実。」
「ノブが居ないのを知ってたから来たんだ。」
「最低だよな。」
頬に触れられる大きな掌。
懐かしい温もり。
引き寄せられる唇。
吐息が重なった。