第49章 振幅
リビングにペタリとしゃがみ込み、本を手に肩を震わせて泣いているヒナ。
小さな背中がより小さく見える。
引越の手伝い?
そんなの嘘だよ。
ただの口実。
2人が一緒に暮らすのは何となく知っていた。
引越日までは、さすがに知らなかったけど。
つい先日、現場で廊下を歩いた時に聞こえた声。
聞き覚えのある声に全神経が集中する。
何処から聞こえるのか…
必死に探す俺は滑稽極まりない。
やっと見つけたドアの隙間。
「一人で全部やるの?」
「うん…だって…その日お仕事だから、仕方ないよ。」
「私と違って大人気だから、大忙しなの。」
「何日?その日空いてたら手伝うよ?」
「○日だけど…唯ちゃんは、幕張でイベントでしょ?」
「あー…カレとご一緒でした…」
「だいたいは、何日かに分けて運んだりするから大丈夫だよ。ありがとう。」
その日なら確実にヒナに会える。
一瞬頭によぎった考えを首を振って振り払う。
どれだけ未練がましいんだよ。
あれからヒナには会ってない。
避けてるわけじゃないけど、幸運なのか不運なのか出演作も被らない。
忘れられると思ったのにな。
そう。
あの日から俺は何も変わってないんだよ。