第49章 振幅
再度鳴るチャイムに駆け足で玄関へ向かう。
鍵を開けて、ドアを開ける。
「達央さん…お久しぶりです……」
「急に悪いな。ノブが仕事って聞いたから、男手が必要かと思って来た。」
「引越しなんだろ?」
「あっ。はい。ありがとうございます。」
「だいたい詰めちゃったので、スリッパも無いんですけど…大丈夫ですか?」
「あぁ。」
視線を合わせることも出来ない。
心拍数が上がる。
この部屋に達央さんと二人。
必然的に今までのことが思い出される。
頭を振り、記憶を遮る。
「業者さん。まだ来ないんですよ。」
「んー。本当に殆ど終わってんな?」
「さすがに引越当日なので、終わってますよー。」
自然とクスクス笑ってしまう。
「なー?あの棚の上って拭いた?埃溜まってんだろ?」
指差された先には、リビングの端にある背の高い白の棚。
中は、全て出したけど上までは頭が回らなかった。
言われて気付く…確かに埃溜まるよね。
棚の上を見ながら、ハッとする。
「あ。そこはノータッチでした。」
「拭くもん出して。」
差し出される手に濡らした布巾を手渡す。
近くにあったイスに上る達央さん。
そのイスの背もたれを支える。
「ん?何かあるぞ?」
頭上から聞こえる声に顔を上げた。
「え?何ですか?」
「本?」
「え?何ですか??」
「埃は付いてないから、最近置いたんじゃねーの?」
「は?そんなとこ置きませんよ…届かないもん。」
「それで何の本ですか?」
「……ノブの写真集。」