第41章 穏和
ドアが閉まる音を確認して、ガバッとソファーから起き上がる。
リビングの隅の本棚の上。
背伸びをして、そこに手を伸ばす。
「よっとっ」
指先に触れる本をたぐり寄せる。
「取れた。」
手に持った本のホコリを手で払う。
「そうだ。かき氷屋さんっと。」
パラパラとページを捲って目的のお店を探す。
「『Matsumoto Shave Ice』だ。」
「急に言うんだもん焦っちゃったよ…」
ソファーに戻り、ローテーブルの棚の隅にあるサインペンを取り出す。
後ろからペラペラと数枚捲り、自分の写真の下にキュキュッと筆を走らせる。
『201○.○.○ 表参道を2人で散歩』
『2年前に初めて待ち合わせした場所の近くでケーキを選ぶ。』
『急にハワイのかき氷屋さんを知りたいって言うんだもん。』
『焦っちゃったよ。』
『僕の写真集が見つからないって。』
『見つかるわけ無いよ…僕が隠してるんだもん。』
『撮影でハワイ。僕も、また行きたいなー。』
フーッと息を吐きかけ、乾くのを確認して元の本棚の上に置く。
サインペンも元の位置へ。
ここに来るのも何度目かな。
記載したページも増えた。
ボクのキミに対する想いも増えてる。
キミはどう思ってるか分からないけど。
あやめさんが引退するんだって。
自由くんの奥さんになるんだってさ。
分かってた事だけど、キツいよな…
何の行動も起こしてないけど。
諦められないのに行動も起こせない。
本当に最低だよ。
膝に肘をつき手を組んで額に着ける。
情けないよ。
本当に…
目頭が熱い。
鼻の奥が痛い。
頬を涙が伝った。