第40章 隠秘
車を降りて、浜辺を歩く。
所々に浮かぶ雲。
その間から僅かに見える形を崩した月。
「もう少しで満月か。」
キラリと微かに光る水面。
頬を撫でる風は心地良い。
砂の上へ足を投げ出し、寝転べば頭上に広がる星空。
都内から少し離れた場所。
深夜の浜辺は人がいないようだ。
一人になるにはもって来い。
瞼を閉じて、ゆっくり空気を吸い込み吐き出す。
『頑張れよー』か…
何、格好つけてんだか。
いや。
少しでも良く思われたいんだよ。
その場しのぎでも構わない。
声に出す事は無い気持ち。
伝えることが出来ない想い。
初めは、ただの新人。
自由に憧れて、この世界に入ったと耳にした。
憧れで続けられる程、優しい世界じゃない。
すぐに挫折すると思ってた。
何度か現場で見掛けるようになり、目で追うようになっていた。
過ごす時間が増える度に目に付く偽る行動と発言。
その意味が知りたくなったんだよ。
今思えばあの時、既にお前に惹かれてたのかも。
認めたくないけどな。
そう。
最初は興味本位。
隙があったから、付け込んだ。
カラダの相性。悪くない。
時折見せる違った一面に心がざわめく。
知る度に、もっと知りたくなる。
次から次へと新しい表情を見せるヒナ。
なぁ…
ワザとやってんの?
すでに毒気が俺を侵す。
どんどん広がる戸惑う感情。
自分で、その気持ちを理解した時には既にヒナの心の中にはノブ。
何でノブ?
俺には無くて、ノブにあるものって何?
なぁ?
いつの間に想いを寄せるほど親しくなったんだよ。
近くにいたと思ってたのは、ただの勘違い?
笑えないよ。
どうしたら良かった?
お前の心に他のヤツが居るなんて。
なぁ?どうすれば良かったんだよ?
視界を奪って、俺だけ見つめて欲しいって言えば良かった?
そんな事…言えねーよ。
俺って何も出来ねーのな。
こんなに弱いなんて知らなかったよ。
お前に…
ヒナに逢わなければ、こんな気持ち知らずに済んだのにな。
この気持ち…この感情を…
大きく溜息を付く。
お前に出会わなければ…
こんな想いするなら出会わなければ良かったのかもな…。
閉じた瞼から水が滴る。
泣いてる訳じゃない。
雨でも降り出したのかもな?