第38章 徒花*
ベッドの上で膝を抱えて座る。
隣では覚醒し始めた岡本さんがグッと伸びをし始めた。
その姿を見つめる。
ふと目が合うと寝起きとは思えない程、爽やかな笑顔。
「おはよう。」
「おはよう…ございます。」
何も無かったかのような明るい表情。
あれは夢だったんじゃないかと思う。
「日菜乃ちゃん。」
私の名を呼び、同じように隣に座る。
「えっと。」
「カラダの関係は、既に出来ちゃってるけど」
「キミが望むなら……付き合う?」
「え……」
予想外の言葉に言葉を失う。
何度も繰り返す、まばたき。
そんな私を見つめながら言葉を紡ぐ。
「えっと…本音を言うとキミのことが好きって訳じゃない。」
「でも。」
「嫌いでもない。」
真剣に私を見つめる。
そんなに見つめられると、目を逸らしてしまう。
「岡本さん…正直すぎますよ。」
「それに岡本さんは、あの人…月島さんが…」
今度は私が見つめる番。
貴方は何て答えるの?
まっすぐ見つめれば、ふと視線を逸らす。
「あー。うん。あの人を越えるほど人を好きになる事は無いと思う。」
今度は、少し離れた窓を眺める。
窓の外、その先を見つめる視線。
その先には、やっぱりあの人…?
「でも。」
「あの人には、愛する人がいるから。」
「幸せになってくれれば、それで良いと思うんだ。」
へへへっと笑う岡本さん。
その笑顔は、スッキリしていて。
思わず魅入ってしまう。
「岡本さんは、お優しいですね。」
「私には勿体ない。」
「責任とって付き合うとか、そう言うのは私には必要ありませんよ。」
「私はそんなに気を遣って頂く価値なんてありませんから。」
ニコッと笑って、もう一度布団に潜り込む。
「もう少し寝ます。」
「おやすみなさい。」