第5章 翻然
「お疲れさまでした!」
「打ち上げは、先日お知らせした通り○日になりますね。」
「水澤さんは、難しそうですか?」
「はい…申し訳ないのですが。」
「その日は、地方にいるので…」
「今日で最後になってしまいますが、お世話になりました。」
部屋の隅で、話している二人を見つける。
最後くらいちゃんと挨拶くらいしないとね。
自分に言い聞かせ、歩みを進める。
「お話のところ、すみません。」
声を掛ければ、視線を向ける二人。
私は目を逸らしながら、絞り出すように声を発する。
「入野さん。月島さん…ありがとうございました。」
「あー。お疲れさま。」
「もう帰るの?」
「はい…雑誌の取材があるので。」
「相変わらず人気者だね。頑張ってね~。」
そう言うと、視線はすぐに月島さんに戻る。
「でね?連れて行きたいお店があるんだ~。」
視界にも入っていない私。
最近チヤホヤされるのに慣れちゃって、感覚がおかしくなってるみたい。
心にポッカリ穴が開いたみたい。
「では、お先に失礼します。」
当たり障りの無い挨拶を交わし、逃げるようにスタジオを出る。
次のクールで、あの二人とは一緒になりませんように…
心の中で呟く。
私は目を逸らすことしか逃げる手段を知らないから。