第33章 周章
「お疲れさまでした。」
何度かスタジオに来ると気持ちに余裕も出て来るのを実感する。
もちろん、ブースに入ると緊張はするけど今まで努力してきたと言う自信も多少はある。
「お疲れさまー。日菜乃ちゃん、この後空いてる?」
この作品で主役を務める櫻井さん。
今までの私なら、到底声なんて掛けられない人。
信じられない事ばかり。
こうして、共演者から声が掛かるのも嬉しい。
共演者…そう呼ばせて貰っても良いのかな?
肩を抱かれて、引き寄せられ現実に引き戻された。
「どうしたの?考え事?」
「あっ。いえ…。」
「それで、空いてる?」
「はっ…はいっ!」
頬が上気するのを感じるの。
「水澤は、次の現場に移動です。」
明らかに不機嫌なこの声は…森本さん…。
「ふーん。そうなんだー。残念。」
そう言って、櫻井さんは私の肩から手を放してヒラヒラと掌を見せる。
私はと言うと、腕を掴まれ廊下を進む。
後ろを振り向けば、すでに別のキャストに声を掛けている姿を捉えた。
「ちょっと。待って下さい!」
「あ?」
睨まれる視線に肩が竦む。
「もう…終わりですよね…?」
「終わりだけど。」
「だって…さっき…」
言い終えないうちに私の視線は床へと落ちる。
「お前さ。自分の置かれた立場、よく考えろよ。」
「何なんですか?」
強がりには慣れた。
そう。
これは、強がりじゃ無い。
ちょっとくらい好きにさせてよ。
慣れないながらも頑張ってるんだから。