第25章 清新
タクシーが止まったお店は、私が足を踏み入れるなんて烏滸がましいような素敵な場所。
慣れたように店内に入る櫻井さんの後ろにくっついて、案内された部屋へ。
通された部屋は、個室で。
座った座布団は、ふかふか過ぎず座りやすい。
視線を横へずらせば、品の良い中庭が見える。
「良い所でしょ?」
「すごい所で戸惑ってます…」
「日菜乃を連れて来られて良かったよ。」
「キャンセルしてくれた方に感謝です。」
ニコリと笑えば、困ったように櫻井さんも笑う。
「それは…俺としては複雑だな。」
「でも。とりあえず、日菜乃と美味しいものを食べられるから嬉しいよ。」
「失礼致します。」
会話が途切れると、仲居さんが飲み物と前菜を運んでくれる。
絶妙のタイミングに驚く。
普段行くお店とは違うな…
「ほら。日菜乃?」
声に急かされお猪口を手に取る。
注がれる日本酒に唾液を飲む。
「あはは。そんな音立てる程飲みたかった?」
「京都でも飲みたがってたもんな?」
笑う仲居さんに顔が赤くなる。
「では。乾杯。」
軽くお猪口を上げて、そっと唇を付ける。
口に広がる味と鼻から抜ける香りにうっとりしてしまう。
「美味い?」
「はい。すっごく美味しいです。」
久々の日本酒と美味しい懐石料理に舌鼓を打ちながら私はこの時間に飲み込まれていった……。