第25章 清新
収録を終え、スタジオの出口を目指す。
「日菜乃~。」
呼ばれた声に振り返る。
「櫻井さん…お疲れさまです。」
手をヒラヒラと振りながら、こちらへ歩みを進め笑いかけてくる。
「今日は、これで終わり?」
「そうですけど…」
顔を覗き込まれると反射的に目を逸らしてしまう。
「そっか。そっか~。」
「どうしたんですか?ご機嫌ですね?」
そう問えば、腰に手を当てて首を横に振る。
「いやいや。どちらかと言えば悪い。」
「え?」
「食事に行く予定だったんだけど、キャンセルされちゃって。」
わざとらしくシュンとする姿も様になる櫻井さん。
「そうなんですか…残念でしたね。」
「なぁ?この後、空いてたら付き合ってくれない?」
「急だったからお店に予約のキャンセルするのも悪いし。」
「結構良いとこだよ?奢るからさ~。」
「え……でも……」
「高級料亭に一人で行けって言うの?日菜乃はヒドいな…」
視線を落として、クルンと背を向ける。
「………。あの…奢ってくれるなら…」
「え!行ってくれるの?嬉しいな~。」
「じゃあ、早速行こうか♪」
背中をポンッと叩かれ、急かされる。
美味しいものを食べられると思えば。
胸騒ぎがするけど…勘違い。
櫻井さんが私なんて相手にする訳無いじゃない。
どれだけ自意識過剰なのよ……。