第24章 予覚
ロビーを抜けると、森本さんと目が合う。
「5分遅刻。」
文字盤をトントンと叩いて、視線で私を嗜める。
「はいはい。すみませんね。」
「反省してるなら、『はい』は1回。」
外へ出ると同時に到着したタクシーへ乗り込む。
「『みやこめっせ』まで。」
慣れた口調で行き先を告げる森本さん。
走り出すタクシーの車窓を眺める。
バックからスマホを取り出し、SNSを眺める。
ふと視線を外へ向ければ、すれ違うバスには色んなアニメのラッピング。
会場のある地区は、イベントがある数日間はアニメモード。
バスだけで無く、電車もラッピングされているらしい。
赤信号で止まれば、隣のレーンには出演作のラッピングバス。
森本さんに手に持ったスマホを奪い取られ、構えられる。
ライトが点いてるからカメラでも起動したのかな…。
「ほら…。」
一旦大きく深呼吸をして、カメラに向かってポーズをとる。
自分の演じたキャラを指差し、笑顔を作る。
カシャッ
「もうそろそろ会場に着くぞ。切り替えろよ?」
「分かってますよ。」
キャップを目深にかぶり、眼鏡を掛け直す。
会場までは、数十分。
SNSの自分のアカウントを立ち上げた。
『会場へ向かう途中で出会いました!』
写真を添付し、保存。
チラッと横から感じる視線。
「会場入りしたら投稿しますよ。」
渡された書類に目を通し、今日のステージを確認。
私が出演するのが、13時からのステージ。
達央さんがその後なのか…
控え室で会わなければいいけど。