• テキストサイズ

遠い約束

第6章 いつつ振って


《丸井side》



「あれ…、貴方、同じクラスだったんだ」
無造作に開けられたドアの音で、一瞬静かになった教室に、先ほど屋上で聞いた声が響いた。
いや、決して大きな声ではなかったのに、そう錯覚するくらいによく聞こえた。

そして、奇遇だのなんのと暢気に話始めた仁王たちを茫然と見つめるクラスメイトに、少しだけ同情の念がわき出たのは仕方がない。
おれだって、あんな風に笑う仁王を見るのは、今日の昼が初めてだったんだ。
人自体をあまり好かず、教室じゃほとんど仏頂面の仁王が今、笑っている。
見ているだけで胸やけしそうなくらい甘い瞳で、蜜のようにとろける声で。
元の顔が良いのだから、本来なら絵になるはずなのに。
ただただ不気味で、ファンを名乗る女子だって顔を青くさせて固まったままだ。

「あ、空いてる席ってどこ?」
「んー…あぁ。俺の隣が空席じゃった」
「………なんの縁だろうね」
無表情ながら、どこか気だるそうに言い置いて、新マネージャーはさっさと仁王が指差した席へ座った。


五限の授業が始まったとき、北里の出席に驚愕する先生と、未だ信じられず茫然とした生徒と、そんなことは一切気にかけず眠る二人の男女がいた。
/ 26ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp