第3章 未来は拓けてる
「サボって絵、描きに来たかったんだろ?ここに。」
ふと影山くんが、完成途中の絵を指して言う。
「あー、そう。一応。よく分かったね、それがわたしが描いたやつって。」
「なんとなく…五十嵐サンの絵っての分かる。
俺の事は気にしないで、描けば?ってか、描いてるとこ見てみてーし。」
影山くんなりに気を遣ってくれたのかもしれないけれど、興味を持ってくれた素振りが単純に嬉しく、お言葉に甘えて作業をする事にした。
合唱の声と、筆がキャンバスを走る音だけが聞こえる静かな教室の中。
日が落ちるのも大分早くなり、暗い窓越しに映る影山くんは時々欠伸をしながらも、意外にもじっとわたしの絵を見ていた。
「やっぱ、アンタの絵も含めて何が評価の基準とか、具体的にどこがすげーとか、相変わらず分かんねー。」
突と影山くんが口を開く。
「正直わたしも分かんないよね。」
「まじか。」
「分かったら迷走しないよねー。」
ちょっと休憩、と筆を置く。
「でも、具体的にって言うと何も言えねーけど、アンタがすげーって事は分かる。」
「お世辞?」
「俺はお世辞とかそういうのは言えねーから、本当に。天才ってやつだと思った。」
真面目な顔してそんな事を言われ、照れるを通り越して吹き出してしまった。