第3章 未来は拓けてる
毎日美術室で絵を描いたり、勉強したり、偶に見かける影山くんを見てちょっと嬉しく思ったり。
そうやって淡々と、ただ何気ない日を過ごしていれば、受験も無事終わり、あっという間にあと残すは卒業だけといった時期に突入してしまった。
学校に来れば連日卒業式の練習。
退屈で仕方がない。
合唱の練習の合間にやがて痺れを切らし、美術室にでも行こうとふらりと体育館を出る。
年明け前から睨めっこしていた白いキャンバスも、今は余すところなく絵の具で埋め尽くされていて、完成も間近といったところだ。
どこに出展する訳でもないので急いで完成させる物でもない。
けれど、一応これはけじめとして。
中学生のわたしが描いた作品、として完成させたい。
式練習で全員駆り出されており、校舎の中はしんと静まりかえっている。
その中一人だけ、向かい側から生徒が歩いてきた。
影山くんだ。
今はお互い誰と一緒にいる訳でもなく、向かい合ったわたしたちは必然的に目が合った。
「やっほ。」
「おう。」
思えば数ヶ月ぶりに会話を交わすわたしたちは、初対面のようにぎこちない。
「なに、サボり?」
「ちげーよ、便所。五十嵐サンは?」
「美術室行くとこ。」
「そっちがサボりじゃないスか。」
ごもっともだと笑うと、影山くんは呆れた様子でいた。
「…じゃあ俺は体育館に戻るから。」
といって立ち去ろうとした影山くんの背中越しに、先生の姿が見え、ぎょっとする。
「やば、先生だ。」
「は?…お、おい!」
わたしは慌てて廊下の角に身を隠す。
なぜか影山くんの腕を掴んで。
「おい、何で俺まで…」
「ごめ、なんとなく…ばれた時の保険?一人より、二人の方がお咎めが少ないかもだし。」
本当に考え無しの行動だった為適当にそう言ったら、影山くんは溜息を吐いて頭を掻いた。