第9章 出会い
「なに、」
俺の手を払おうとする、その手に力が篭る。
間近にすると、さらに強くなる香り。堪えられない。
堪らず、俺は、脛に流れるそれを、舐めとった。
口の中に広がる味。同時に、鼓動の音がどんどん遠くなり、頭がぼんやりとしていく感覚に襲われる。
血の筋を舐め上げるように、脛から膝へ、舌を移動させる。
俺は傷口にしゃぶりついた。
友梨香が痛みに、小さく声をあげる。
舐める度に、口に砂利が入ってくる。そんな事も気にならない程、無我夢中でそれを舐めた。
どのくらいそうしていたのか、それとも一瞬だったのか、
友梨香の脚が震えている事に気づき、はっとした。
さっきとは違う意味で、頭が真っ白になる。
何してんの、俺。
やってしまった。今までこんな事はなかった。
他の人の血を見る事があっても、当然のように我慢ができた。
なのに、それが今、できなかった。全く歯止めが効かなかった。
よりにもよって、なんでこいつに…
絶対に弱みを見せてはいけないような、こいつに。
「…いいよ。止めないで。」
友梨香は小さくそう言った。おそるおそる顔を上げる。
潤んだ目、紅潮した頬。緩く微笑んだ口元。
見た事のない友梨香の表情。
いや、こんな表情をする女子を見る事自体が初めてだった。
見てはいけない物を見てしまったような、でももっと見てみたいような、歪な感情が渦巻く。