第1章 前編
それから彼が戻ってくるまで5分程だったろうか。
とてつもなく長い時間に感じられたけれど……。
「いましたよ。この先の広場にたくさんの人が集まっています。その中に……」
彼がそう言いながら笑顔で目の前に降り立った。
「ありがとうございます!」
その広場なら知っている。ここからそんなに遠くない。
ユメはホっと胸を撫で下ろす。
それを見て、彼は微笑んだ。
「大丈夫ですか? そこまで送りましょうか?」
「いえ、大丈夫です!」
そこまでしてもらうのは、さすがに悪い気がした。
「それでは。気をつけてくださいね」
「はい! ……あ、あの!」
再び地面から離れた彼に呼びかける。
「また会えますか?」
「え?」
びっくりする彼。
顔を真っ赤にしながらユメは先の言葉を続ける。
「あ、お礼とか……したいので! また会えたら、そのときに」
すると彼はにつられたように顔を赤くしながら、少し考えるような仕草をした。
そして、
「約束は出来ませんが……全てが終わったら、この町にもう一度来てみますよ」
彼はそう笑顔で言ってくれた。
「ありがとうございます! がんばってください!!」
ユメは嬉しくて、思わず大きな声で言う。
すると彼はグリーンの瞳を大きく見開いて、
「はい」
と、キレイに微笑んだ。
それが彼との、一度だけの思い出。
その後私は無事家族と合流することができた。
そしてすぐに激しく後悔することになる。
名前くらい聞いておけばよかった……。