第2章 それぞれの思い
豊臣秀吉は頭を悩ませていた
(最近、優希は一人でふらふらと露店を見に行ったりしているみたいだ。無防備過ぎるだろう。放っておけない。だが前についていこうとしたら、子供あつかいしないで、とふくれ面をされたしな)
先程まで続いていた軍議で用いた巻物を整理しながらはあ、とため息をつく。紐を結び、文机(ふづくえ)の隅にそれをそっと置く。そして秀吉は腰を上げて障子に向かうと、それを勢いよく開け放った。眩しい日差しが薄暗かった彼の部屋と暗さになれていた秀吉の眼に勢いよく差し込む。眩しそうに眼を細めると草木の匂いがつん、と香る縁側で大きく伸びをし、ゆっくりと深呼吸をする。
花を摘んではその香りと可愛らしさにうんうん、と嬉しそうに頷きながら側に置かれた竹かごにそっといれたり、美しい模様の鯉が泳ぐ池の中をじっと除き混んだりしてはにこにこと笑う優希を以前はここからよく見かけていた。その姿を見つける度に秀吉は縁側に腰掛け、邪魔をしないようにそっと眺めていた。しばらくしてふと縁側のほうへ向いた優希の目線と彼のそれがかちりと合う。あ、と小さく呟くと秀吉さん、と可愛らしく呼びこちらに向かって駆け寄って来ていた。
そんな姿を静かな庭を見ながらぼんやりと浮かべると、秀吉は少し恥ずかしくなり頭をガリガリとかいた。
(なんとかして優希にかまう用事ができないものか)